挿入って本当に必要ですか? ――女性向け風俗から学ぶ「女性にとって本当に気持ちの良いセックス」

※本記事は、宣伝会議 第43期 編集・ライター養成講座の卒業制作として作成しています

 

 

 女性が本当に安全にセックスができる環境とは、いったいどこにあるだろうか。

 セックスがしたいと思った時に恋人がいない場合、マッチングアプリや飲み屋で行きずりの相手を見つけるのは難しくないかもしれない。しかし容姿や体型を笑われたり、尻軽女と低く見られて、気分を害したら暴力に晒されるかもしれないと、強い不安を感じるだろう。

 気心の知れた恋人がいたとしても、避妊をしてもらえない、オーガズムに達することができない、避妊はしたはずなのに生理がこないなど、なにかと我慢や不満、不安を抱えがちではないだろうか。女性にとってセックスとは、常にリスクと隣り合わせの行為だ。

 そうした悩みから解放されて、性欲を解消したい。できれば一人でなく、男性の身体を使って。そんな欲望を満たしてくれるサービス「女性向け風俗」が密かなブームを呼んでいる。

 ここで言う女性向け風俗(以下「女風」)は、男性がセラピストとして、女性の利用者にオイルマッサージや性感マッサージを提供するサービスを指す。男性向け風俗で言うデリバリーヘルスにあたる無店舗型性風俗特殊営業、つまり実店舗を構えずに出張派遣でサービスを提供する店が大半だ。

 性感マッサージはキスやハグから指や舌の挿入までがパッケージになっていて、オプションとして玩具の使用やソフトなSMプレイを楽しむことができる。男性がサービス提供者であっても、日本では売春防止法により売春行為が禁止されており、特に店舗での管理売春は刑事罰が科されるため、性器の挿入行為、いわゆる本番行為は禁止となっている。

 他にも女性が利用する風俗店としては、女性キャストが女性利用者にサービスをするレズビアン風俗や、「レンタル彼氏」で話題を呼んだ、男性キャストが女性利用者とデートをする出張ホストなどがある。しかしながら、一般に言う男性が利用する「風俗」と同様に、セックスを目的に女性が男性を買うことができるのが、女風の大きな特徴だ。

 

コロナ禍も追い風? 女性向け風俗の今

 近年、女性向け風俗の市場は顕著に伸張している。

 そもそも女性が男性の性を買うという現象は、古今東西の歴史を見ても例が少ない。男性の性が売られる事例はあれど、その買い手は多くは男性だ。身体的に性行為で能動的な立場を取りづらいことはもちろん、女性が歴史を語り残せる立場になかったことも原因のひとつだろう。

それに加えて、男性向けの風俗と同様、届出を行わずに個人的に売春を行っているケースや個人経営の店舗で知名度を得られないケースもあり、具体的にいつごろから女性向け風俗のサービスが展開されていたかには、諸説ある。確かな記録に残っているのは、二〇〇七年に福岡でオープンした女性向けソープランド「CCクラブ」だ。しかしこれは半年で潰れている。本番行為をサービスに含んでいたが、それゆえに男性従業員が回数をこなせない、利用する女性の心理的ハードルが高すぎて利用者が増えないなどの要因があり、うまく採算に乗らなかったと見られている。

 現存するデリヘル形式の風俗店の歴史をさかのぼると、業界最大手の「東京秘密基地」は二〇一五年に設立している。クチコミを中心に話題を呼び、利用者が増えた二〇一八年ごろ、他店舗の新規開業も激増する。女性向け風俗情報サイト「女性用風俗.com」に掲載されている店舗は、二〇二二年1月時点、全国で四百以上にのぼる。

 特に東京や大阪などの都市部は激戦区で、各店舗はコンセプトやセラピストの質、ホームページのデザインなどで差別化をはかっている。

 前述の「東京秘密基地」はセラピストの在籍数が最大級で、年齢層やタイプを幅広く取り揃えているため、好みのセラピストが見つかる可能性が高い。また豊富なコンテンツ力を誇り、具体的にどのような流れで施術が行われるのか、動画コンテンツで紹介したりランキング上位のセラピストが発信したりしている。それゆえ施術のイメージがつきやすく、初心者が利用しやすいのが強みだ。店舗数も随一で、東京だけでも20店舗、各道府県にも店舗数を増やしており、全国に50以上を展開している。それだけに女風と言えば秘密基地、との呼び声も高く、女風経験者におすすめの店を聞くと大体基地グループの名が出てくる。

「萬天堂」は秘密基地に次いで店舗数が多く、全国に26店舗を構える。黒を基調にしたホームページデザインに、おそらくは40代から50代の女性を想定した、絵文字や顔文字の多い文体が踊る。性感マッサージの基本サービスや無料オプションの種類が豊富で、アブノーマルなプレイもお願いできる雰囲気がある。セラピストの年齢層も比較的高めで、40代や50代の男性も多く在籍しているのが特徴だ。

 「KaRent」は萬天堂とは真逆の、白を基調とした、まるで美容サロンのようなホームページデザインだ。女性オーナーが経営する「女性の女性による女性のためのお店」が売りで、性感マッサージと同じくらいデートコースの利用が多いのが特徴だ。そのためか、セラピストは20代から30代が中心だ。

 

すべては女性のために! 心も身体も任せられるサービスの実態

 セラピストの経歴は非常にバリエーションに飛んでいる。元ホストや元AV男優など、いわゆる夜の職業の人はもちろん、元整体師や元芸能人など近い業界の経験者もいれば、営業やエンジニアなど一般企業に勤めていた人のほか、現役大学生まで多岐にわたる。また専業セラピストだけでなく、昼は一般企業で働き、夜は女風のセラピストをこなすダブルワーカーもいる。

 彼らが女風の世界に飛び込んだきっかけも、さまざまだ。お小遣い稼ぎがしたい人もいれば、女性が好きでセックスのテクニックを磨きたい人もいる。だが、そうした下種な欲望だけでは続かない世界だ。日本ではまだ平均的に男性より女性の賃金が低いため、女風は価格が比較的安く設定されている。具体的に言えば、2時間2万~2万5千円が相場だ。店の取り分が半分の場合、セラピストの取り分は自給換算で5千円だ。さらに、男性に比べてオーガズムに達しにくい女性を相手に満足を得てもらうためには、よりきめ細やかなおもてなしを提供する必要がある。つまり労力が必要なわりに報酬は少なく、同じサービス水準の男性向け風俗に比べると、割は良くないと言える。

 では彼らは一体どこに働くモチベーションを保っているのだろう。もちろん人によってさまざまだが、ひとつ傾向を見出すなら、女性とのコミュニケーションを楽しんでいるからだろう。実際に、評判の良いセラピストほどコミュニケーション能力に長けている。クチコミを見ると多くの女性が「施術が気持ちよかった」よりも「コミュニケーションが楽しかった」に文量を割いている。彼らは女性に安心して身を任せてもらうための距離の詰め方がうまかったり、心や身体の悩みに寄り添って励ますのがうまかったり、おおっぴらには言いづらい欲望を引き出すためのテクニックを持っていたりする。セックスは究極のコミュニケーションだと、改めて思い知らされる。

 男性に比べて風俗を利用することが一般的でなく、性に奔放であることが世間的にマイナスに見られがちな女性を相手にするとあって、システム面にも配慮がされている。

 セラピストは店舗のホームページに掲載するいわゆる写メ日記のほか、個人でTwitterを開設し、日常の話題や性病検査の結果を定期的に投稿したり、ツイキャスと呼ばれる音声生配信を行ったり、自分がどんな人間かを発信している。また匿名で質問を投げかけられるツールを利用して、客や興味を持った人からの質問に回答し、不安や疑問を払しょくする工夫を行っている。

 またセラピストへの教育にも力を入れている。定期的にマッサージやコミュニケーションの研修を行い、セラピストのスキル向上を支援している。さらに利用客の個人情報や尊厳を守るため、原則セラピスト同士で利用客の情報交換は禁止だ。より徹底するために、セラピスト同士の交流自体を禁止している店舗もある。

 一方の、女性が女風を利用するきっかけや理由もさまざまだ。男性経験が少なくオーガズムを体験したい人、恋人を気持ちよくするためのテクニックを知りたい人、夫とセックスレスになってしまい性欲を持て余している人、まるきり好奇心で利用した人。年齢層も20代から60代までとかなり幅が広い。

 

利用者体験談――風俗嬢Oさんの場合

 都内に住むOさん(28歳・仮名)は、自身が男性向けの風俗で働いていて、女性向けの風俗ではどんなサービスがあるのかもともと興味を持っていた。利用したきっかけは、恋人と喧嘩した腹いせだった。お金を払うからにはより良質なサービスを受けたいと考え、まずはホームページに掲載されているランキングの上位陣のプロフィールをチェックした。選ぶ基準は、身長が高くて性感のテクニックがある人と決めていた。

 いろいろ読み込んで選んだセラピストにTwitterでコンタクトを取り、予約を入れる。彼は元ホストで、どうしたら女性が喜ぶかを熟知し、話術に長けていた。待ち合わせのためにやり取りをする間にも、胸が躍るような言葉をくれて、Oさんの期待は膨らんだ。

 繁華街で待ち合わせてホテルへ入り、カウンセリングから始まる。希望するオイルマッサージと性感マッサージの割合、部屋の明るさやBGMなど、施術や雰囲気の好みから、今までイったことがあるかどうか、してほしくないことなどをすり合わせる。その後に料金を支払い、それぞれシャワーを浴びてから、タイマーがスタートする。

 施術はオイルマッサージから始まる。背中や肩などベーシックなもみほぐしから、徐々に腰や尻、胸などのきわどい部分に移っていく。そのうち触り方が普通のマッサージからフェザータッチに変わって、セラピストの低い声を耳に吹き込まれて、性感マッサージが始まる。Oさんにとってはかなり鮮烈な体験だった。

「期待通り、すっごくよかったです! 百点満点の体験でした。こんな世界があるんだって感動しましたね」

 この体験を忘れたくなくて、セラピストのプロフィールとメッセージのやり取りのスクリーンショットを取った。それから体験談をSNSに投稿して、友達にも勧めて回ってしまった。

「私は2時間コース、ホテル代込みで3万円弱支払いましたけど、これだけのサービスをこれだけの値段で受けられるのってすっごく安いです。男性向けの風俗なら2時間8万円する高級店のクオリティですよ。私ももっとサービスを頑張らなきゃって、同業者として刺激を受けました」

 普段ホストに通って一晩に数十万~数百万を支払っているからなおさら、料金の安さには度肝を抜かれた。そのうえセラピストの取り分は料金の半分だと聞いて、それではあまりに少ないだろうと、チップを握らせてしまった。

 この体験が忘れられず、また恋人と大喧嘩した時にも女風に駆け込んだ。いろんな人を試してみたくなり、別のセラピストを探す。一般料金より高い料金体系が示されている、特設ページに載っているお店選りすぐりのセラピストの中から、もっとも高身長の人を選ぶ。彼も元ホストで、女風でも2年間指名ランキングナンバーワンを取り続けている、確かな実績があった。それだけにサービスもテクニックにも非の打ち所がなかった。

「ふたりとも本番行為はありました。でも強要ではなく、提案でした。嫌なら断ればいい感じ。私は嫌な気はしなかったので、してもらいました。でも例え本番がなくても大満足でしたね」

 またOさんの交友関係の中では、もともとホストにハマっていた人が、女風のセラピストにハマるパターンも増えているという。

「ホストはふたりきりでいられる時間が短いし、いくら貢いでもセックスできるかわからない。でも女風なら数万円で絶対にふたりきりでいられるし、セックスもできて、コスパがいい。それにホストより顔もいいし話もうまいし優しくていい男なんですよ。女の子は自分の顔とか体型とかに自信なくて尻込みしがちだけど、接客側からしたら不美人でも太ってても、清潔感があれば全然気にならないので、勇気を出して使ってみてほしいです」

 

 利用者体験談――性嫌悪疑惑Yさんの場合

 都内在住会社員のYさん(30歳・仮名)は昨年、自身が30歳を目前に恋人ができたことがない原因を確かめたくて、女風の利用を決めた。

「私、恋人とセックスしたことがないんです。会社の飲み会で終電逃しちゃった時に、同期に言いくるめられてホテルに入ってヤられちゃったのが初体験。その後は行きずりの人と何回か。そういうのもあって男性に性的な目線を向けられるのにすごく嫌悪感があって、恋人を作ろうと思えなくて」

 自分はもしかしてレズビアンなのか、それともアセクシャル(無性愛者。誰にも性愛を感じることがない人)なのか。男性への嫌悪を乗り越えたら、男性とも付き合うことができるのか。それを探るためにはまず、男性との楽しいセックスの経験を試したい、と思った。しかし知り合いに声をかけたりアプリでセックスフレンドを作ったりするのは、安全にセックスができるかがわからない。女風は挿入こそないものの、企業が管理する人がサービスをしてくれるのだから、下手なことはしないだろう。ちょうど初回利用の人は利用料金が安くなるキャンペーンが始まっていたのもあり、店にコンタクトを取った。

 プロフィールを見て好みのセラピストを指名しようとも思ったが、いまいち決め手に欠けていたし、予約が取れなくて待たされるのも嫌だったので、セラピストの選定は店におまかせにすることにした。しかしたくさんセラピストがいるので、好みを教えてくださいと店から聞かれてしまった。自分の年齢に近い年代で、背が高すぎず、男らしくなさすぎない柔らかめの人がいいです。そうひねり出した回答は曖昧だった。

 派遣されてきたセラピストは希望通り、20代後半で柔らかい雰囲気の男性だった。元整体師で、他のセラピストにマッサージの先生をしているという。これは施術にも期待できる、と思ったが、緊張して心と身体が解れていなかったためか、期待したほどの快感は得られなかった。そのうえ久々の行為だったためか膣が傷つき、変な臭いのするおりものが出て、婦人科のお世話になった。

「初めての利用は失敗でしたね。私、プライベートで男性とセックスするたびに、膣から出血したり避妊してもらえなかったりで婦人科に行ってるんですよ。プロに頼んだら大丈夫かなと思ったのに、また婦人科に行くことになったのが悔しかったし、こんなにクチコミはいいのに自分はなんで気持ちよくなかったのかなって、いろいろ考えちゃって」

 膣が治ったころ、もう少し自分本位に使おうと、二度目の利用を決心する。失敗の原因は、セラピストにもプライベートのセックスと同様、どうしたら不快にせず気持ちよくなってもらえるか気を遣って、演じてしまったと考えた。こちらがお金を払っているのだから、相手のこういう女性が抱きたいという欲求に合わせるのではなく、自分がしてほしいことに貪欲になってみよう。

そう考えなおしたらいてもたってもいられず、三時間後に予約できますか、と店舗に連絡を入れた。希望のセラピストはすでに予約が入っていたので、穏やかな雰囲気でテクニックがある人がよい、と希望を出した。派遣されてきたセラピストは、一般企業の営業職から転職してまだ二か月の新人だったが、歴の浅さを感じさせないコミュニケーション能力を持っていた。

 緊張が取れていたせいか、カウンセリングでも「耳が弱いので重点的に攻めてほしい」と要望を出せたせいか、あるいはセラピストとの相性がよかったのか、前回よりはかなり気持ちよく感じた。

「施術中の手が温かくて、気持ちよかったです。あと施術後も恋人っぽく身体を洗ってくれたり髪の毛乾かしてくれたりしたのもくすぐったくて。お別れした後、心も身体もぽかぽかしてましたね」

 Yさんが経験してきたセックスは、相手の欲求を呑み込んであげるものでしかなかったが、今回初めて自分の欲求に向き合って、より深く自分を知ることができたと感じた。

「二回とも本番行為はなかったですね。持ち掛けられもしませんでした。施術中にセラピストが下着を脱ぐこともなくて、とても安心できました。男性に対する嫌悪感は、セックスは男性の快感中心に行われなければならないって思い込んでたからと気づいたのは、自分のことながら目からうろこで。でも耳や背中を触ってもらうとすっごく気持ちよくてそれだけで満足できたし、私が気持ちよくなるために男性器の挿入は不要って、なんだか逆に吹っ切れました。次はレズビアン風俗を試してみたいですね」

 男と女がセックスをする以外の、さまざまな性のあり方が認められている今だからこそ、男女のセックスのあり方を見直すべきではないだろうか。

 まずは女性が、男性に任せきりにしがちな快感の主体性を取り戻すことだ。自分がどうされたら気持ちいいか、どういうことをしたいか、自分の身体と心の機微を知る。そしてそれを相手の男性に伝える。その結果、挿入はしなくても大丈夫、と思う女性が増え、セックスの終わるタイミングが男性の射精でなく、女性の絶頂になる日がくるかもしれない。